できたてガパオライス

ゆすらの日常。毒にも薬にもならないことばたち。

sans title

 2024年元旦 21時半過ぎ


 少し歩こうと実家の庭に出てみたら、星がたくさん見えて驚いた。上京して10年過ぎ、あちらでも星はちゃんと見えるよねなんてオリオン座を指して話していたけれど、こちらではオリオン座以外の星もたくさん見えていたこと、そしてオリオン座もあちらより明るく見えていたということ、すっかり忘れていた。やはり記憶はさして頼りにならない。だってあの夜は、ガスも電気も水道も止まって街が闇と不安と恐怖に包まれたあの冬の夜は、今夜の空よりさらにたくさんの星が見えていたのだから。あの日はもっと鮮明に、残酷なほど美しく星が輝いていて、高校の駐車場から友人たちとそれを見上げていた。だがそれも事実として頭に残っているだけで、どのくらいの星が見えていたのかはもはや定かではない。

 ただあの日、恐怖に心をあけ渡してしまったらきっと今日がトラウマになるということだけははっきりとわかっていて、だから私は自分の理性を必死に掴み続けていたのだった。

 歩き始めて見えた月はいつもより低く、オレンジ色で、船のような形をして浮かんでいた。あれがみんなを救ってくれる方舟だとして、一体どこを逃げられるというのだろう。空だろうか。今日は荒れているであろうあちら側の海のことを思う。山脈を隔てたお隣の県とは、雪も高波も、分け合うことができない。どうか誰も彼も、本当にみんな、無事でいて。どうか生き延びて。地震があった時に祈ること、偽善や自己満足だったとしてもやめないと、既に心に決めている。

 今回実家に来なかったもう1人の家族に会いたい夜だ。綺麗な星空を届けたくてiPhoneのカメラを向けてみたけれど、全然うまく撮れなかった。隣にいても遠くにいても共有できないものばかりで、だから私はこんなにおしゃべりになってしまったのかもしれないね。理性を掴み続けることが得意になった分、たまにこうして感情を持て余す。口にしたってどうしようもないからここでしか言わないけれど、やっぱりね、怖いよ。

f:id:yusura_0411:20240101230020j:image