できたてガパオライス

ゆすらの日常。毒にも薬にもならないことばたち。

短編小説

非接触ディストピア

俺やっぱ、馬鹿だからかな。高いとこ登ると落ちつくわ。 そう言ったあいつは、馬鹿よりもむしろ煙のようだと僕は思った。 煙は死の象徴であり、生の象徴だ。幼い頃、夏休みの度に訪れた祖父母の家は、祖父が亡くなってから延々と煙が漂うようになった。それ…

ワンナイト・ジントニック

キスもセックスもない、文字通りのワンナイト・ラブをしたことがある。 22歳の5月、金沢。空は快晴で、もう初夏と呼べるくらいの暖かさだった。スマホを取り出して、メッセージを打ち込む。 「金沢つきました」 送信先は、かつて恋にも満たない憧れを抱いて…

嘘が上手な女の子

沙希は咄嗟に嘘をつくのが上手い。 たとえば、「沙希ちゃんって彼氏いるの?」と誰かに尋ねられた時、「いる」と「いない」以外の答えを何通りも、沙希は持っている。二択の答えしか持たず、それも真実しか言えない馬鹿正直な僕とは正反対だ。そう僕が言えば…

急行を見送って、恋が終わる。

何もない街の、何もないところを愛していた。 きみと私の共通点はそう多くはなくて、ただひとつ挙げるとすればそれは「各駅停車しか止まらない駅に住んでいる」ということだった。最寄り駅に止まる電車の速さはそのひとの生きるスピードを表しているとどこか…