できたてガパオライス

ゆすらの日常。毒にも薬にもならないことばたち。

急行を見送って、恋が終わる。

 何もない街の、何もないところを愛していた。

 きみと私の共通点はそう多くはなくて、ただひとつ挙げるとすればそれは「各駅停車しか止まらない駅に住んでいる」ということだった。最寄り駅に止まる電車の速さはそのひとの生きるスピードを表しているとどこかで聞いたが、本当だろうか。止まらない電車を見送るように、羽ばたいていく友人たちを何度も見送ってきた。

 きみの住む街は都内なのになんにもなくて、駅からの道がとても長く感じられた。表にミントグリーンの自転車が止まっている、白いコーポの102号室。何もない部屋に住む、何も要らないきみに求められる優越感で、息をするように喘いだ。

 「引っ越すから」

 きみの一言に息が詰まり、何もない部屋には酸素があったことを知った。ドラマだったらここで雨が降り出すんだろうなどと、妙に冷静な頭で考える。

 「へえ。どこ?」

 試すように尋ねた私にきみが告げた駅は、急行が止まる駅で。あ、もう会わないんだ、って思った。何もない駅じゃないじゃん。何も要らないんじゃなかったのかよ。ばーか。

 新しい最寄り駅を躊躇いなく告げるところだけは私の好きだったきみのままで、そんなところだけ変わらないのはずるいと思った。駅を教えたところで私が会いに来ることはないってわかってるんだ、きみは。

 「じゃあね」

 後腐れなんてこれっぽっちもないですよって顔で、ひとことだけ告げて部屋を出る。きみと会うためだけに降りていたこの駅にも、もう来ることはないだろう。何もない駅に何もなくなった私の涙がひとしずく、ひかって落ちた。