できたてガパオライス

ゆすらの日常。毒にも薬にもならないことばたち。

2020-01-01から1年間の記事一覧

虚空へ手を伸ばす

2020年12月21日(月) 冬至 黒板にチョークを走らせる。頭の中で数式を解きながら、手は次の数式を組み立てる。誰もが無言の教室で、彼と私のチョークが黒板に打ちつける音だけが響いている。刹那、彼が声を上げた。 「あ、こういうことか!」 え、待ってよ。…

喪失を抱えて生きる

2020年11月4日(水) 木枯らし1号、晴れ 職場から家へと向かう電車が物凄い速さで以前の最寄り駅を通過するたび、もうここは私の住む街ではないのだと実感する。人は呆気なく街を裏切り、街もまた呆気なく人を忘れる。1日でも練習をさぼると指は動いてくれなく…

ただの人になっていく

十で神童、十五で才子、二十歳過ぎれば只の人。 多くの人には、人生で「ただの人」になるときというものが訪れる。きっとどんな人にもいつかは訪れるであろうそれは、しかし気づくと既に過ぎた後であることも多い。私自身、かつて最強で無敵だった(と信じて…

急行を見送って、恋が終わる。

何もない街の、何もないところを愛していた。 きみと私の共通点はそう多くはなくて、ただひとつ挙げるとすればそれは「各駅停車しか止まらない駅に住んでいる」ということだった。最寄り駅に止まる電車の速さはそのひとの生きるスピードを表しているとどこか…

海に近いあの街は、夏の匂いがした。

江の島にほど近いあの街の、夏の夜の匂いを、よく覚えている。 惰性で深夜アニメを流しつつ横になった、部屋の床の匂い。東京の暑さに慣れなくて、上京して初めて夏バテになった。ぐったりと凭れた頬に伝わるフローリングのつめたさと、開け放した窓から流れ…