できたてガパオライス

ゆすらの日常。毒にも薬にもならないことばたち。

雲井の滝

 滝を切りとって持ち歩いている。

 うまくことばにできないことがたくさんあって、うまく笑えないのもいつものことで、そんな時、私は私だけの滝の流れる音を聴く。それは勢いよく流れて、力強く跳ねて、でも誰のことも傷つけない。流れ続ける水の、そのすべてが異なる飛沫で、私は私がかけがえのない人間であることを、信じてみたくなる。

 人の声は苦手だ。ドライヤーの音も、換気扇の音も。人の生み出す音の多くは尖っていて、それとは知らずに容易に誰かを傷つける。たぶん、音は耳より先に胸に届くんだろう、知らない幼子の泣く声で私は息ができなくなる。

 死んだら山に行きたい。渓流の涼しげなせせらぎと、キツツキの木をつつく音と、カワガラスの弦を張ったような声を聞きながら、私は山の一部になって、滝が流れる土壌になる。それはまた誰かのスマートフォンに切りとられて、品川の人混みを歩く誰かのこころを支えたりするかもしれないけれど、そんなのもう私には関係ない。私の胸はもう、尖った音で理不尽に突き刺されたりしない。

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