人のいなくなった街のこと、死んだ街なんて言って、みんなすぐ主語をうやむやにして、怖くないふりをしている。街ははじめから、ほんとうは静寂で、誰もしゃべらなかったらどこかの国の砂が流れる音まできっと聞こえるはずなんだ。
生まれる前の胎内は、どんな音がしていたのかしら。お母さんの声が聞こえたとか、波の音が聞こえたとか言うけれど、もしかしたら、なにも音はしなかったんじゃないかしら。だからこうして、街が本来の静寂を湛えているとき、私たちはほんのちょっぴりさみしいような、泣きたいような、それからどこか懐かしいような気持ちになるね。
きみの声が聴きたいよ。それは私たちの生まれた音で、静寂を殺した音。ひっそりと静まり返った夜みたいな街で、罪を共有するみたいに、あまくてぞっとするその声とハミングしよう。