できたてガパオライス

ゆすらの日常。毒にも薬にもならないことばたち。

華金マリッジブルー

 法を犯す勢いで時間外労働が積み上がったので、そろそろセーブしろとのお達しが出た。残業時間が毎日平均3-4時間ずつ減り、心身の調子が元に戻りつつあるのを感じている。


 金曜の夜。20時には最寄りに着けそうだと連絡すると、めずらしく同居人から「待ってるから一緒にごはん食べよう」とLINEが返ってきた(私の帰宅時間がまちまちなので、我が家ではご飯は別々に食べている)。滅多にないお誘いに浮かれ気分で「焼肉行く?」と送ってみれば「あり」との返信。飲み会の後にカラオケに行く大学生のようなノリで、突発的な焼肉ディナーが決まった。


 会社を出る頃から空腹を持て余していたので、席に着くなり焼いては食べ、焼いては食べを繰り返した。時折炭酸水を流し込む。おいしいものをおいしく食べられる健やかさが何より幸せだと思った。


 おいしいものを食べる時、それを一緒に食べる相手がいることは非常に大きな意味を持つ。良くも悪くも。今回は無論、良い意味だ。ダイエット中の身としては、1人で網を囲んで肉を焼こうという気持ちは起こらないし、そもそも網を「囲む」ことができない。物理的に。


 それができたのは、私の目の前で某炎柱の彼の人よろしくうまいうまいと繰り返しながら肉を食らう彼ー同居人がいたからこそで、彼が私の帰宅まで夕食を我慢して待っていてくれたからこそだ。


 このところ、同棲や結婚や妊娠・出産について考える機会が多く、そのことに多少辟易していた。それは何か、足枷のようなものに思えてならない。今の私には。入籍前に口癖のように言っていた「籍を入れるまでは実質フリーでしょ?」というのは、半分冗談で、半分本心だ。彼以外の誰かと関係を持つという意味ではなく、free(解放されている)という意味において。


 だから入籍を終え、挙式を控えている自分の選択に些か懐疑的だった。決断を早まったかもしれないと。世間的に幸せと思われがちな新婚の身分でおおっぴらに口に出せることではなかったけれど。


 とはいえ、過去の自分が下したこの結論になるべくなら寄り添っていきたい。新しい環境に慣れるのにいつも時間がかかる自分のことだ、挙式が済めばこの懸念も杞憂に終わる可能性だってある。


 だから、今の生活を始めてよかったことを、溢さずにひとつずつ数えていこうと思うのだ。思い出にすると悪い面ばかり目立ってしまいがちだから。


 そのうちのひとつが、この夜の焼肉だ。突発的な焼肉に付き合ってくれる相手のいること、外食の後当たり前に手を繋いで同じ家に帰れること、おいしいものを食べた時に「おいしい」と口に出せること。それらすべて、友人とできないことではないけれど、友人ではなく恋人と叶える楽しみが確かにあの夜にあったということを、ここに記録しておく。


 依然としてこの生活に懐疑的な私がいつか、何かしらの覚悟を決める時がきたとして、その際の検討の一材料になるように。


 願わくば、こうした幸せが積み重なって、将来の私が手放しでこの結婚生活を楽しめるようになればいいと思う。